胃がん・胃癌について
胃がんは日本人に多い癌で1990年代半ばごろまでは、がん部位別死因では胃がんがトップでした。近年、胃がんによる死亡率、罹患率ともに減少傾向にあります。その要因は、食生活・ライフスタイルの変化、医療の進歩、検診により早期発見の実現があると考えられます。
現在、胃がんは早期発見・早期治療することができれば「治る癌」と言えます。この記事では、胃の役割について解説し、さらに胃がんについてお話しさせていただきます。
♦︎目次♦︎
1 胃とは
1.1 胃の構造
1.2 胃の働き
2 胃がんとは
2.1 胃がんの初期症状
3 胃がんの原因・リスクと予防
3.1 胃がんの原因・リスク
3.2 胃がんの予防
4 胃がんの検査
4.1 血液検査
4.2 ABC検査
4.3 胃部X線バリウム検査
4.4 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
4.5 CT検査
4.6 MRI検査
5 胃がんの治療
6 診療費用
1 胃とは
「胃が小さい、大きい」などという表現をすることがありますが、一般に胃の容積は、空腹時では50ml以下ですが、食べ物が胃に入るとその容積は1.5L程度まで大きくなり、食事量が多い場合には2Lにもなります。ストレスの多い現代社会を生きる我々は、無意識のうちに胃を酷使しています。胃について理解を深め、生活習慣を見直すきっかけにしていただければ幸いです。
1.1 胃の構造
胃は、食道と腸を繋ぐ袋状の臓器でみぞおちの辺りに位置します。胃は入口から噴門(ふんもん)、胃底部、胃体部、幽門(ゆうもん)前庭部、胃の出口である幽門と呼ばれる部位で構成されています。
胃壁は5層から成り、胃液や粘液を分泌する粘膜層、粘膜下層、固有筋層、漿膜しょうまく下層、漿膜(しょうまく)に分けられます。
胃がんは、幽門部にできやすく、粘膜上皮の細胞から発生し、進行すると粘膜下層、固有筋層、漿膜(しょうまく)へと浸潤していきます。
1.2 胃の働き
胃の働きは、食物を一時的に蓄えて、胃酸によって栄養が吸収されやすい粥状にし、胃の蠕動運動によって少しずつ腸へ送り出します。しかし、この際、胃自体が栄養を吸収する働きはありません。また、胃酸には、食べ物に付着した細菌などを殺菌し体を守る働きがあります。胃酸の酸性度は塩酸にも増して非常に強いのです。
2 胃がんとは
胃がんの早期では自覚症状がほとんどなく、進行しても症状が乏しい場合もあります。ここでは、胃がんの症状などについて解説します。ご自身で少しでもあてはまる症状があれば、検診を待たずに医療機関を受診することをお勧めします。
2.1 胃がんの症状
胃の不調は誰もが一度は感じたことがあるため大袈裟に捉えず、放置しがちです。しかし、下記のような症状があれば放置せず早めに医療機関を受診してください。
①上腹部痛・胃の不快感
胃はみぞおちの辺りに位置することから、胃に不調があるとみぞおち付近、お腹の上部に痛みや違和感を感じます。
②食欲低下・食べ物がつかえる・嘔吐
胃がんが進行した場合に癌細胞が増殖し、消化管が狭くなったことによる食欲不振や食べ物がつかえ飲み込みづらい感じや嘔吐などが起きることがあります。食べ物がつかえる場合は食道がんの可能性もあります。
③体重減少
胃がんによる食欲不振と、胃がんが進行する過程で癌細胞が筋肉や骨を分解し栄養を吸収するため体重減少が起きます。5キロ以上の体重減少がある場合、胃がん以外にも怖い病気の可能性があります。医療機関を受診しましょう。
④黒色便・貧血・吐血
胃がんが進行すると胃粘膜からの出血が起きるため、便が黒色になり、出血が続くことで貧血になります。貧血の場合には、ふらつきや疲れやすいといった症状も伴うこともあります。また、出血の量が多い場合、吐血することもあります。
3 胃がんの原因・リスクと予防
3.1 胃がんの原因・リスク
胃がんは日本人に非常に多い癌だったこともあり、その研究は進み、胃がんになる原因・リスクが解明されています。
①ピロリ菌感染
ピロリ菌感染がある場合、リスクは6倍にもなると言われます。特に50代以上の世代が上下水道が完備しない時代に井戸水を利用し生活をしていた方にピロリ菌感染がある割合が高いと言われてます。40歳以上で胃カメラやピロリ菌検査を一度も行った事のない方は検査を受け、陽性であった場合は除菌を行うことをお勧めします。
②塩分
日常的に塩分の多い食事を摂ると胃の粘膜が破壊され、慢性的な炎症が起こり、胃がんができやすい環境になると考えられています。高血圧の原因にもある塩分摂取は過剰にならない方が良いでしょう。
③喫煙
タバコは、様々な癌のリスクファクターとなる可能性があります。胃においては、喫煙によって胃粘膜が萎縮し慢性萎縮性胃炎を起こすことがあると言われます。この慢性萎縮性胃炎が進行し胃がんになる可能性があると考えられます。
④アルコール
アルコールは、体内でアセトアルデヒド→酢酸→水・二酸化炭素に分解され排泄されます。この過程でできるアセトアルデヒドには発がん性があり、アルコールを代謝する酵素の働きが弱い人が多量に飲酒するとアセトアルデヒドの分解に時間がかかるため、アセトアルデヒドが身体に有害に働き、胃がんになりやすいと考えられています。過度な飲酒は肝臓や膵臓にもよくないので控えましょう。
⑤肥満
肥満は、胃がんに限らず、癌のリスクファクターとなります。肥満や運動不足などによって引き起こされる高インスリン血症などが腫瘍細胞が増殖しやすくなるという説もあります。
⑥家族歴
胃がんの家族歴と発症については様々な研究が行われていますが、遺伝的要因だけでなく、同じ箸を使用し幼少期に食事を与えるなどの行為によって家族間でのピロリ菌感染が起きることが示唆されています。
3.2 胃がんの予防
前述したように胃がんのリスクファクターは解明されており、それらのリスクを減らすことが胃がんの予防には効果的です。特に取り組んでいただきたいのは、「ピロリ菌の除菌」と「塩分を控える」ことです。
ピロリ菌除菌
ピロリ菌の検査にはいくつかの種類がありますので医師と相談の上、検査を行います。ピロリ菌が認められた場合には、内服薬によるピロリ菌の除菌を行います。除菌治療終了2か月(8週間)後以降にピロリ菌の除菌に成功しているかを判定する検査を行います。除菌が成功せず、ピロリ菌が残っている場合には2次除菌(1度目とは違う薬を内服する)を行います。
しかし、ピロリ菌除菌によって100%のリスク回避ができるわけではありません。1度でもピロリ菌に感染した胃は生涯胃がんになるリスクが高くなります。除菌後も定期的な検診を受けることをお勧めします。具体的に1年に1回の胃カメラ検査が望ましいでしょう。
塩分は6gが目安
胃がんのリスクで解説したように塩分の摂り過ぎは、胃粘膜を破壊する可能性があります。和食は健康食ではありますが、味噌汁や漬物、塩辛などは塩分濃度が高いものは、取りすぎに注意して下さい。塩分は、1日6g以下を目安することが理想です。
喫煙やアルコールは適量を心がけ、肥満防止のためにバランスの取れた食生活と適度な運動習慣を持つことをお勧めします。
4 胃がんの検査
4.1 血液検査
胃がんを原因とする貧血や炎症の有無を調べます。
進行した胃がんの場合には、血液検査によってCEA(carcino-embrionic antigen),CA19-9,AFP(Alpha-feto protein)などの腫瘍マーカーを測定することができます。しかし、胃がんの早期ではこれらの腫瘍マーカーを認めることはありません。
4.2 ABC検査
最近では人間ドックなどで血液検査による「胃がんリスク検診(ABC検査)」を行う方が増えています。ABC検査は、胃の萎縮の程度やピロリ菌感染の有無を血液によって測定し、将来の胃がんリスクを予測する検査です。この検査は自由診療になります。
4.3 胃部X線バリウム検査
最近では胃カメラが楽な検査になってきたため少なくなってきましたが、胃部X線バリウム検査は人間ドックや健診でも行われており、一般にバリウム検査の名前で広く知られています。一昔前に多く行われていた早期がんが発見できることも多い検査法です。炭酸ガスで胃を膨らませて粘膜を広げ、広げた粘膜にバリウムを薄く付着させ、X照射を行うと胃粘膜の凹凸を観察することができます。当院では行っておりません。
4.4 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
胃の内視鏡検査は、胃の検診として行います。また、胃がんや逆流性食道炎などの症状がある場合にも保険診療で胃カメラ検査ができます。また、血液検査、胃部X線バリウム検査で胃がんと疑われた場合には、内視鏡検査で組織を取り、組織検査を行います。当院の胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)は麻酔を使用して行えます。麻酔を使用すると眠ったまま胃カメラ検査を行うことも出来ます。(普段から睡眠薬を使用している方は眠れない場合があります)
4.5 CT検査
CT検査はX線を使用し体の断面を撮影します。癌の深さや胃の周囲の臓器への浸潤(癌細胞の広がり)、他の臓器への転移の有無などを調べます。CT検査はある程度被曝しますが、多くの情報量を得ることが出来る有益な検査です。当院でもCT検査は行っております。
4.6 MRI検査
MRI検査は強力な磁気を利用して体の断面の画像を撮影することができます。癌の広がりを調べるために適した検査であり、CT検査で調べることが困難な臓器への転移などが疑われる場合にMRI検査を行います。当院ではMRI検査は行っておりません。
5 胃がんの治療
医療の進歩により、胃がん治療の選択肢は増えています。外科的治療、化学療法、放射線治療があり、胃がんのステージに適した治療を患者さんの希望を尊重し決定します。
外科的治療には、内視鏡的粘膜切除、開腹手術、腹膜鏡下手術があり、早期の胃がんであれば、内視鏡的粘膜切除(胃カメラで胃がんを切除する治療。皮膚は切らないため身体への負担が少ない)によって治療することが可能です。
下に当院の理事長伊勢呂が以前の病院で経験した胃がんの内視鏡的粘膜切除術の動画を載せておきます。参考になれば幸いです。
抗癌剤による化学療法では、近年、新薬の開発が目覚しく、がん細胞に特有の分子をピンポイントで攻撃する分子標的薬とよばれる抗癌剤も登場し治療の幅が広がっています。2020年には、進行胃癌であるスキルス胃がんを治療する分子標的薬の治験が開始され、期待が高まっています。
胃がんが疑われる患者さんは、当院から適切な医療機関へ紹介状をお出しいたします。
6 診療費用
当院は全て保険診療です。
初診の診療費用は薬代を除き、おおよそ下記のようになります。(3割負担)
尿検査のみ | 2000円前後 |
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エコー検査のみ | 2500円前後 |
採血+尿検査 | 3500円前後 |
採血+尿検査+エコー検査 | 5000円前後 |
胃カメラ | 3500円前後 |
CT検査 | 5000円前後 |
当院では、患者さん全員を番号でお呼びし、全席に仕切りを設けてプライバシーにに配慮した診療を行い、経験豊かな専門医が患者さんに寄り添う診察を心がけております。
上腹部痛・胃の不快感や急な体重減少、黒色便などの症状があるという方は、池袋消化器内科・泌尿器科クリニックにお気軽にご相談ください。
名古屋大学出身
消化器病学会専門医
消化器内視鏡学会専門医
内科認定医
肝臓、胆嚢、膵臓から胃カメラ、大腸カメラまで消化器疾患を中心に幅広く診療を行っている。