ヘリコバクター・ピロリ菌について
ピロリ菌は、正式名をヘリコバクター・ピロリ菌といい、胃の粘膜に棲みつき毒素を出すことで胃に障害をきたし、胃がんや胃潰瘍などの原因となります。ピロリ菌の感染率は、 日本人の50代以上は70〜80%程度感染しているという調査結果もあります。
ピロリ菌は土壌や井戸水に存在します。日本では昭和40年代ごろまで飲料水に井戸水を使用していた地域もあり、その時代に幼少期を過ごした人が多い50代以降の人は感染率が高い傾向にあります。上下水道の普及によりピロリ菌保有者は減少傾向にあると言われますが、日本でのピロリ菌の感染者数はおよそ6,000万人と未だ多い状況です。この記事では、ピロリ菌感染と除菌の重要性について解説しますので参考にしていただければ幸いです。
♦︎目次♦︎
1 ピロリ菌とは
2 ピロリ菌感染が起こす疾患
2.1 慢性胃炎
2.2 消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)
2.3 萎縮性胃炎
2.4 胃がん
2.5 ピロリ菌感染が引き起こすその他の病気
3 ピロリ菌感染の原因
4 ピロリ菌の治療
5 ピロリ菌の検査
5.1 内視鏡検査による検査
5.2 内視鏡を使用しない検査
6 除菌後の判定試験
7 ピロリ菌と胃がん
8 診療費用
1 ピロリ菌とは
胃が分泌する胃酸は、強酸性 (pH 1〜2) で食べ物を消化する働きとともに食べ物と一緒に胃に入ってきた細菌を殺菌します。ピロリ菌も同様でpH4以下では生息できません。しかし、胃の強い酸性の環境でも生息することができる理由は、ピロリ菌が出す「ウレアーゼ」という酵素にあります。ピロリ菌はウレアーゼを出すことによって、胃の中の尿素を分解しアンモニアを作り出します。このアンモニアはアルカリ性のため胃酸が中和され、ピロリ菌の周囲が胃酸から守られ生息できるという仕組みです。
ピロリ菌の体長は約4mm程度ととても小さく、4〜8本のベン毛と呼ばれるヒゲのようなものがあり、このベン毛がヘリコプターのように回転しながら移動することから、ヘリコバクター・ピロリと名付けられました。実は、ピロリ菌が発見されたのは1983年と、それほど遠い昔ではありません。1979年、オーストラリアのロイヤル・パース病院の病理専門医ウォーレンと研修医のマーシャルの共同研究によって発見されました。
彼らは、後にピロリ菌と名付けられる「らせん状桿菌 」が胃に棲みつき胃炎が起こると考えました。それを証明するためには菌を分離・培養する必要がありましたが、難航を極めました。失敗を繰り返しながらもようやく菌の培養に成功し、1983年にピロリ菌を発表し、世界中から注目されました。そして、その翌年、1984年には、なんとマーシャルは培養したピロリ菌を飲み込み、自分自身の体で人体実験を行い、10日後に内視鏡検査を行い、ピロリ菌が胃粘膜に生息し急性胃炎が起きていることを証明しました。ウォーレンとマーシャルの勇気ある研究、発見は、医療の発展に大きく貢献し、2005年のノーベル医学生理学賞を受賞しました。
ピロリ菌に感染している方の多くは、5歳頃までの幼少期の感染と言われます。ピロリ菌の感染が長期間に渡ると胃粘膜が萎縮し慢性胃炎を引き起こし、慢性胃炎から胃がんへと進行することがあります。ピロリ菌にはワクチンなどの予防法はなく、ピロリ菌の感染が発見された際にピロリ菌の除菌を行うことによって癌化へのリスクを避けることができます。
2 ピロリ菌感染が起こす疾患
ピロリ菌に感染しても多くの人が自覚症状がありません。しかし、ピロリ菌感染が長期に渡ると胃の機能が大きく低下し、胃液が十分に分泌されなくなり、食欲不振や胃もたれ、胸焼け、ゲップなどの症状があらわれることがあります。ピロリ菌の感染によって引き起こされる疾患は下記の通りです。
2.1 慢性胃炎
ピロリ菌は胃粘膜に棲みつき、アンモニアを排出します。アンモニアは胃粘膜に悪影響を及ぼし、その状態が長期に渡ると慢性胃炎を引き起こします。
2.2 消化性潰瘍(胃潰瘍・十二指腸潰瘍)
ピロリ菌は胃の粘膜に張り付いて毒素を出す細菌であり、その毒素によって胃粘膜に炎症が起きると、胃の防御機能が低下し胃潰瘍や十二指腸潰瘍が発生しやすくなります。
2.3 萎縮性胃炎
ピロリ菌による慢性胃炎がさらに進行すると、胃液などを分泌する正常な組織が減少し、さらに胃粘膜が薄くなり、萎縮が起きた状態をいいます。萎縮性胃炎になると、胃の機能が大きく低下し、胃液が十分に分泌されなくなり、食欲不振や胃もたれ、胸焼け、ゲップなどの症状があらわれることがあります。
2.4 胃がん
長期間のピロリ菌感染によって胃粘膜が萎縮した状態が長く続くと腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)という状態になり、胃がんの発症リスクが高くなります。胃がんとピロリ菌の関連は否定できず、胃がん発症者の約99%以上にピロリ菌感染歴があるという報告もあります。
2.5 ピロリ菌感染が引き起こすその他の病気
胃マルトリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、機能性ディスペプシア、胃ポリープ、早期胃がんなどがありますが、無症状のまま進行するケースもあり、定期的な検査が重要です。
3 ピロリ菌感染の原因
ピロリ菌の感染経路は明らかになっていない点も多くありますが、ピロリ菌は井戸水や土壌などに生息する菌であり、水や食べ物と一緒にピロリ菌を摂取していると考えられます。特に衛生環境が整備されていなかった時代には井戸水による感染が多くあったと言われています。
また、すでにピロリ菌を保菌している感染者が菌を培地するケースも多いと推測されます。というのも、50代以降の70−80%がピロリ菌に感染しており、そういった方々がお孫さんなどに同じ箸を使って食べ物を与えることでお孫さんが感染するというケースも少なくありません。
4 ピロリ菌の治療
ピロリ菌の感染が判明した場合には、抗生物質の内服によるピロリ菌の除菌を行います。除菌後にはピロリ菌がいなくなっていることを確認するため、抗生物質の内服終了後、8週間後以降に尿素呼気試験を行い判定します。1回目の除菌を1次除菌と呼び、1次除菌でピロリ菌が残ってしまった場合には、2次除菌(2回目の除菌)を行います。2次除菌が成功しなかった場合には、3次除菌を行うことも可能ではありますが、保険診療で行うことができるのは2次除菌までとなります。
一般に2次除菌まで行った場合、95%以上が除菌に成功すると言われています。なんらかの理由で成功しなかった場合には、3次除菌を行うこともできますが、保険診療の適応外となるため自費診療となります。
ピロリ菌除菌 | 使用する薬剤 | 投与期間 |
---|---|---|
一次除菌 |
タケキャプなど(PPI:プロトポンプ阻害薬) |
一週間 |
二時除菌 | タケキャプなど(PPI:プロトポンプ阻害薬) メトロニダゾール(ニトロイミダゾール系抗原虫薬) アモキシシリン(ペニシリン系抗生物質) |
5 ピロリ菌の検査
ピロリ菌の検査には内視鏡を使う方法と使わない方法があります。
5.1 内視鏡検査による検査
① 迅速ウレアーゼ試験
ピロリ菌が排出するアンモニアを調べます。
② 検鏡法
採取した組織を染色することでピロリ菌の菌体を顕微鏡で観察することができます。
③ 培養法
採取した組織を用いて培養します。ピロリ菌が存在した場合、培養によってピロリ菌が増えます。
5.2 内視鏡を使用しない検査
① 血清抗体測定
ピロリ菌に感染するとピロリ菌に対する抗体をつくるため、血液中にこの抗体が存在するかを調べます。
② 尿素呼気試験
ピロリ菌に感染しているとピロリ菌が持つウレアーゼという酵素により、胃の中の尿素を分解しアンモニアと二酸化炭素を生成するため、呼気中に二酸化炭素が多く排出されます。検査薬を服用し、呼気中に二酸化炭素を測定します。
③ 便中抗原測定法
糞便中のピロリ菌抗原を調べます。
6 除菌後の判定試験
ピロリ菌の除菌後は、除菌が成功しているかを確認するため尿素呼気試験を行います。除菌後の判定試験は、除菌から8週間以上を空けて行います。尿素呼気試験の下記のような流れとなり、外来で行うことができ、検査の所要時間は約30分程度です。
① 尿素呼気試験前日
アルコールを避け、21時以降は水以外の飲食は禁止です。(お薬の服用は問題ありません)
② 尿素呼気試験前日
午前中の検査・・・朝食は摂らずに受診してください。水以外の飲食は禁止です。
午後の検査・・・昼食を摂らない、もしくは検査まで食後最低4時間空けて受診してください。
喫煙は検査の30分前までは問題ありませんが、それ以降は検査が終わるまで中止してください。
7 ピロリ菌と胃がん
ピロリ菌に感染した全ての人が胃がんになるわけではありません。胃粘膜の萎縮の程度や年齢、生活習慣によっても異なります。しかし、ピロリ菌感染がある場合には、10年間での胃がんの発生率はおよそ3%、ピロリ菌感染がない場合ではほぼ0%といわれています。これまでの様々な研究から、日本人の胃がんの99%はピロリ菌感染が一因となっていることが明らかになっています。
しかし、上記に解説したようにピロリ菌に感染していても自覚症状がない場合も多く、健康診断等でピロリ菌の有無を調べ、早期に除菌を行うことが胃がんを予防する意味でも重要です。
8 診療費用
当院は全て保険診療です。
初診の診療費用は薬代を除き、おおよそ下記のようになります。(3割負担)
尿検査のみ | 2000円前後 |
---|---|
エコー検査のみ | 2500円前後 |
採血+尿検査 | 3500円前後 |
採血+尿検査+エコー検査 | 5000円前後 |
胃カメラ | 3500円前後 |
CT検査 | 5000円前後 |
当院では、患者さん全員を番号でお呼びし、全席に仕切りを設けてプライバシーにに配慮した診療を行い、経験豊かな専門医が患者さんに寄り添う診察を心がけております。
ピロリ菌の感染が不安、胃痛や胃もたれ、胸焼け、ゲップなどの症状があるという方は、池袋消化器内科・泌尿器科クリニックにお気軽にご相談ください。
名古屋大学出身
消化器病学会専門医
消化器内視鏡学会専門医
内科認定医
肝臓、胆嚢、膵臓から胃カメラ、大腸カメラまで消化器疾患を中心に幅広く診療を行っている。