食道がんについて
近年、日本の食生活の欧米化や肥満の増加によって様々な疾患の罹患リスクが高まる傾向にあります。食道がんもその一つであり、食生活との深い関連がありますが、あまり広く知られていないのが現状です。この記事では、食道の役割について解説し、さらに食道がんについてお話しさせて頂きます。
♦︎目次♦︎
1 食道とは
1.1 食道の構造
1.2 食道の働き
2 食道がんとは
2.1 食道がんの初期症状
3 食道がんの原因・リスクと予防
3.1 食道がんの原因・リスク
3.2 食道がんの予防
4 食道がんの検査
4.1 血液検査
4.2 上部消化管内視鏡検査
4.3 超音波内視鏡検査
4.4 消化管造影検査
4.5 CT検査
4.6 MRI検査
5 食道がんの治療
6 診療費用
1 食道とは
我々が食べ物を食べる際、口の中で咀嚼し、飲み込むと胃へと入っていきます。口から胃までの通り道にあたるのが食道です。
1.1 食道の構造
食道は図の様に背骨の前に位置し、体の中心部の深い場所にある臓器です。食道のすぐそばに気管があり、また前側には心臓があり、命に関わる臓器と近い位置にあるため、食道がんの治療にはリスクが伴う場合があります。
1.2 食道の働き
食道は、口から胃の中に食べ物を送り込む働きがあります。飲み込んだ食べ物は、物が落ちるように胃の中へ入っていくのではなく、食道の蠕動運動によって運ばれていきます。食道の蠕動運動とは、食道の壁の筋肉が、上から下へ収縮を繰り返す動きのことで、この蠕動運動によって臥位(寝た)姿勢でも食べ物が胃まで送り込まれていきます。
2 食道がんとは
食道がんには、主に扁平上皮がんと腺がんのふたつのタイプがあり、日本では約90%が食道の粘膜の扁平上皮から発生する扁平上皮がんです。一方の腺がんは、逆流性食道炎との関連が深く、胃酸の逆流が長期間繰り返されることによって食道の粘膜が胃と同じ粘膜に変化してしまうバレット食道と呼ばれる状態になることがあります。 バレット食道は食道腺がんという特殊な食道がんに進展しやすく主に食道の下部に発生します。また、食道のどの位置に癌が発生するかによって頸部食道がん、胸部食道がん、腹部食道がんの3つに分けられます。
日本では年間に約2.5万人の方が食道がんと診断され、11000人の患者さんが亡くなっているという統計もあります。食道がんは男性の罹患率が高いという特徴があり、男性5:女性1という比率です。食道がんはその進行度によって下記のように分類されます。
早期食道がん | 食道の壁の粘膜内にとどまるがん |
---|---|
表表在食道がん | 粘膜下層までしか達していないがん |
進行食道がん | 表在食道がんより深層まで達しているがん |
進行食道がんとなり、さらに進行していくと気管など食道の周囲の臓器にまで癌細胞が広がっていきます。また、癌細胞が食道の壁のリンパ管や血管から侵入し、リンパ液や血液の流れに乗って他のリンパ節や臓器へと到達し、増殖すると転移が起きます。
2.1 食道がんの症状
食道がんの初期ではほとんど症状が出ませんが、癌が大きくなるにつれて何らかの症状が出てきます。その代表的な症状は以下の通りです。
①胸・背中の違和感、痛み
飲食物を飲み込んだ時に違和感やしみる感じ、胸や背中の痛みが出ることがあります。初期では、症状の再現性に乏しく、症状が消えることもありますので注意が必要です。また、進行食道がんとなると周囲にある臓器へ癌が広がり、胸や背中に痛みが現れます。
②飲み込みづらさ
癌が大きくなってくると食道の内側が狭くなり、食べ物が通過しづらくなります。その症状として、食事が飲み込み辛くなります。さらに癌が大きくなると水や唾液を飲み込むことも容易ではなくなります。
③体重減少
癌が大きくなり、飲み込むことが困難となると十分な食事が取れず、体重減少に繋がります。
④声のかすれ
進行食道がんになると、癌が周囲の臓器に広がり、気管や気管支などに及び、その刺激によって咳が出ることがあります。また、声帯を動かす反回神経という神経のまわりにリンパ節転移が起こることが多く、その転移によって声のかすれが出ることもあります。
上記のような症状が一つでもあるという方は、放置せず医療機関を受診してください。
3 食道がんの原因・リスクと予防
喫煙、多量飲酒の習慣がある人、飲酒に伴い顔が赤くなるフラッシャー(お酒を飲むと顔が赤くなる)の人は、そうでない方に比べて罹患率は3倍以上と報告されています。
3.1 食道がんの原因・リスク
食道がんの原因・リスク
- 大酒家
- フラッシャー(お酒を飲むと顔が赤くなる)
- 喫煙者
- 肉食を好む
- 野菜、果物の摂取量少
- 刺激物を好む
喫煙、多量飲酒がある方が食道がんになりやすいという傾向からも分かるように喫煙と飲酒が食道がんの最大のリスクです。アルコールを摂取すると体内で代謝されアセトアルデヒドが発生します。アセトアルデヒドは発がん性物質の一つであり、食道粘膜の扁平上皮に蓄積しやすい特徴があり、食道がんが発生するリスクとなります。
アルコールが代謝される過程でアセトアルデヒドは、アセトアルデヒド脱水素酵素によって分解されますが、フラッシャー(お酒を飲むと顔が赤くなる)の人ではこのアセトアルデヒド脱水素酵素の働きが生まれつき弱くアセトアルデヒドが蓄積しやすいため食道がんになりやすい傾向にあります。
喫煙が食道がんを引き起こす大きなリスクとなる理由は、タバコに含まれる発がん性物質です。食道の壁は4mmと非常に薄く発癌性物質の影響を受けやすいと考えられます。
また、喫煙、多量飲酒以外にも食道がんのリスクは表に示すように複数あり、生活習慣が大きく影響します。
3.2 食道がんの予防
食道がんの予防には、禁煙、刺激物を避ける、バランスの良い食生活、適度な運動、飲酒は適量を心がけてください。早期発見には、胃カメラ検査による検査が有用なため、定期的な胃カメラ検査を受けることをお勧めします。
4 食道がんの検査
食道がんを早期に発見するためには定期的に検診を受けることが重要です。しかし、一般の検診で早期の食道がんを発見することは難しいため上記の「食道がんの症状」で解説したような症状がある場合には、検査前に医師に症状について詳しく伝えておくことが大切です。 食道がんが疑われた場合には、詳しく調べるため必要に応じて以下の検査を行います。
4.1 血液検査
癌の進行度の指標となる腫瘍マーカーを調べます。しかし、癌の初期の段階では異常値になることはほとんどありません。
4.2 上部消化管内視鏡検査
一般に胃カメラと呼ばれる検査です。胃カメラ検査では、食道の内部を直接観察することができ、他の検査では見つけることが難しい微細な病変を見つけることができます。また、胃カメラ検査では癌が疑われる組織を少量採取し、生検を行うことができ食道がんの早期発見に役立ちます。当院では麻酔を使用した眠ったままできる胃カメラ検査を行なっております。詳しくは当院スタッフまでお尋ね下さい。
4.3 超音波内視鏡検査
内視鏡と超音波装置を一体化した検査で癌の深さ、食道の周囲の臓器やリンパ節への転移を調べます。食道がんと診断した場合に行います。当院では行っておりません。超音波内視鏡検査が必要な場合は適切な病院をご紹介させて頂きます。
4.4 消化管造影検査
一般にバリウム検査と呼ばれる検査です。バリウムを服用しバリウムが食道を通過するところをレントゲンで撮影します。
患者さんにとって苦痛が少ない検査です。胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)に比べて得られる情報量は少なく、最近では胃カメラ検査が主流となってきておりバリウム検査の検査数が減ってきました。
4.5 CT検査
食道のどの位置に癌があるか、リンパ節転移や、他の臓器への転移を調べることができます。CT検査はその他の臓器についても詳しく検査することが出来ます。当院でもCT検査は行っております。
4.6 MRI検査
CT検査で十分に判断できないリンパ節転移や、他の臓器への小さな転移を調べることができます。当院では食道がんに対してMRI検査は行っておりません。必要な場合は適切な病院をご紹介させて頂いております。
5 食道がんの治療
食道がんの治療は進行度によって適した治療を選択します。食道がんのステージは下記のように分類されます。
0期•••早期がん
がんが粘膜内にとどまっている早期がんでは、内視鏡によって癌組織を含む食道粘膜を切除します。早期がんでの内視鏡切除術は、全身麻酔や皮膚を切開する必要もなく、身体への負担が少ない治療法です。癌細胞を含む食道粘膜だけを切除するため、食道を残すことができるため術後の生活も変わらず送ることができます。
しかし、癌細胞を切除した後には生検(細胞を調べる)を行い、粘膜よりも深い部分へ癌が浸潤していると判明した場合には、リンパ節転移のリスクを回避するため、手術や化学放射線療法の治療を行うことを検討します。
0期で癌細胞を完全に切除できた場合の5年生存率は、およそ90%以上と報告されています。
Ⅰ期•••転移のない粘膜下層浸潤
癌細胞が粘膜下層まで浸潤し、かつリンパ節転移のないものに対しては、外科的手術を検討します。外科的手術によって癌細胞が完全に切除できた場合には、5年生存率は75%程度と報告されています。
Ⅱ期とⅢ期•••進行がん
進行がんの場合には、他の組織やリンパ節への転移の状況から手術可能な範囲であれば、術前に化学療法とその後で外科的手術を検討します。5年生存率は、II期で60%、III期で40%と報告されています。
Ⅳ期•••切除不能がん
食道がんが他の組織やリンパ節に転移し、さらに深達度が深い場合には、根治が難しいため、患者さんの希望を優先し、個別に適切な治療法を考えQOL(生活の質)を維持する治療を行います。
6 診療費用
当院は全て保険診療です。
初診の診療費用は薬代を除き、およそ下記のようになります。(3割負担です)
尿検査のみ | 2000円前後 |
---|---|
エコー検査のみ | 2500円前後 |
採血+尿検査 | 3500円前後 |
採血+尿検査+エコー検査 | 5000円前後 |
胃カメラ | 3500円前後 |
大腸カメラ | 9000円前後 |
CT検査 | 5000円前後 |
当院では、患者さん全員を番号でお呼びし、全席に仕切りを設けてプライバシーにに配慮した診療を行い、経験豊かな専門医が患者さんに寄り添う診察を心がけております。
食べ物が喉につかえる、声がかすれるなどの症状がある方は、池袋消化器内科・泌尿器科クリニックにお気軽にご相談ください。
名古屋大学出身
消化器病学会専門医
消化器内視鏡学会専門医
内科認定医
肝臓、胆嚢、膵臓から胃カメラ、大腸カメラまで消化器疾患を中心に幅広く診療を行っている。