機能性ディスペプシアについて
現代病とも言える「機能性ディスペプシア(FD:functional- dyspepsia)」が増加しています。FD(機能性ディスペプシア)とは、腹部の不快症状が慢性的に続いているにもかかわらず、検査をしても粘膜に異常が認められない状態をいいます。日本人の約10人に1人がFD(機能性ディスペプシア)であると言われ、近年、増加傾向にあります。FD(機能性ディスペプシア)は命を脅かす病気ではありませんが、QOL(生活の質)の低下に繋がります。この記事ではFD(機能性ディスペプシア)について詳しく解説します。
♦️目次♦️
1 機能性ディスペプシア(FD:functional- dyspepsia)とは
2 FD(機能性ディスペプシア)について
2.1 FD(機能性ディスペプシア)の症状
2.2 胃の機能異常とFD(機能性ディスペプシア)
3 FD(機能性ディスペプシア)の原因
3.1 FD(機能性ディスペプシア)と自律神経
3.2 不規則な生活習慣と暴飲暴食
4 FD(機能性ディスペプシア)の検査
4.1 問診
4.2 採血検査
4.3 画像検査
4.4 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
4.5 胃排出機能検査
4.6 ドリンクテスト
5 FD(機能性ディスペプシア)の治療
5.1 薬物治療
5.2 食生活と生活習慣の改善
5.3 ストレスマネジメント
6 FD(機能性ディスペプシア)と男性更年期
7 診療費用
1 機能性ディスペプシア(FD:functional- dyspepsia)とは
FD(機能性ディスペプシア)とは検査で胃に異常が認められないにもかかわらず、胃の不快な症状が続いている状態と言います。胃の機能には分泌、運動、知覚の3つの働きがあり、これらの機能に異常が起きるとなんらかの胃の不調を感じるようになります。FD(機能性ディスペプシア)を放置すると心の状態にも大きく影響し、鬱症状を引き起こすケースもあります。胃の不調が続く場合には一度は医療機関を受診することをお勧めします。
2 FD(機能性ディスペプシア)について
2.1 FD(機能性ディスペプシア)の症状
FD(機能性ディスペプシア)の症状は大きく2つのタイプに分類することができます。
①食後愁訴症候群
食後愁訴症候群は普段の食事に伴って起き、食後の胃もたれや早期飽満感(食事の途中で満腹となり、十分な量を食べられれなくなること)を感じます。
②心窩部痛症候群
心窩部痛症候群とは食事の有無によらず起きる症状で心窩部痛(しんかんぶつう)、心窩部灼熱感(しんかんぶしゃくねつかん:みぞおちの焼けるような感じ)などが代表的な症状です。
2.2 胃の機能異常とFD(機能性ディスペプシア)
①分泌異常
胃酸の分泌異常が起きると胃痛・胃もたれなどの症状が起きやすくなります。また、胃酸が十二指腸に流れ込むことで胃の運動機能が低下し、FD(機能性ディスペプシア)を発症すると考えられます。
②運動異常
胃は食べたものを一時的に貯蔵し消化し十二指腸へ送り出します。しかし、運動異常により食べ物を上手く胃の中に貯蔵することができなくなると早期飽満感や心窩部を感じます。逆に胃の中に貯蔵した食べ物を十二指腸へ送りだす働きが滞ると胃の中に食べ物が長く留まってしまい、胃もたれを引き起こす原因となります。
③知覚過敏
アイスクリームや冷えた飲み物を摂ると胃が冷たく感じ、暖かいスープや飲み物を摂ると胃が暖かく感じるということは多くの方が経験したことがあるでしょう。胃は『感じる臓器』であり、胃の知覚過敏とは胃が刺激に対して敏感に反応し、痛みなどを感じやすくなっている状態を言います。知覚過敏の状態では、通常の食事でも刺激となり、FD(機能性ディスペプシア)の症状が引き起こされます。
3 FD(機能性ディスペプシア)の原因
FD(機能性ディスペプシア)については未だ分かっていないことも多くありますが、ストレスや生活習慣が深く関わっていることが明らかとなっています。
3.1 FD(機能性ディスペプシア)と自律神経
心臓や胃腸など内臓の働きをコントロールしているのは自律神経です。自律神経とは、命を維持する為に24時間働き続け、心身の健康維持に重要な役割を担っています。日中の活動時には交感神経が活発となり、胃酸の分泌は減少し、リラックス時には副交感神経が活発になり胃酸の分泌は増加します。ストレスが多い現代では交感神経が活発な状態が長く続く傾向にあり、胃酸の分泌が減少した状態が長くなると胃の働きが弱まりFD(機能性ディスペプシア)が起きると考えられます。
3.2 不規則な生活習慣と暴飲暴食
FD(機能性ディスペプシア)の原因は一つでは無く、睡眠不足、不規則な食生活、偏食、暴飲暴食などが一因となります。高カロリー脂肪食が消化吸収に時間がかかり、胃に負担をかける傾向にあります。また、就寝前に食べることも食べ物が胃に止まる時間が長くなる傾向にあり、避けるべき習慣です。
4 FD(機能性ディスペプシア)の検査
以前はFD(機能性ディスペプシア)は病気として認識されておらず、慢性胃炎や神経性胃炎などといった病名が付けられたり、『気のもちよう』などと精神論にすり替えられることもあり、検査をしても異常がない胃痛に悩まされた患者さんも多くいらっしゃいました。日本では2013年に初めて保険診療名として承認されました。FD(機能性ディスペプシア)の歴史は10年余りであり、未だ広く認識されていない状況にありますが、FD(機能性ディスペプシア)の症状がみられる場合には早めの検査をすることが望ましいでしょう。FD(機能性ディスペプシア)だと思っていても胃がんや逆流性食道炎のような症状が隠れている場合もあります。
4.1 問診
FD(機能性ディスペプシア)の症状は、他の胃の疾患の初期症状に類似しているため、自覚症状や症状を感じる頻度、いつから症状が始まったか、症状を感じる状況などを細くヒアリングします。
4.2 採血検査
炎症の有無を調べ、貧血があれば胃粘膜での出血も疑う指標となります。
4.3 画像検査
症状に応じて適切な画像検査を行います。画像検査には、レントゲン検査、超音波検査、CT検査、MRI検査があります。患者さんの希望を優先し適切な検査を行います。
4.4 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)
上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)では、胃潰瘍、胃ポリープ、逆流性食道炎、胃がんなどを調べることができますので上記の検査で必要と判断された場合には患者さんと相談の上、内視鏡検査を行います。
また、ピロリ菌の感染が疑われる場合にも内視鏡検査を行います。当院では眠ったままの胃カメラ検査が可能です。詳しくは当院医師までお尋ねください。
以上の検査で異常がないことが判明した場合には、症状を改善する薬を服用していただき経過を見ます。しかし、薬による治療を行っても改善しない場合、患者さんの希望があれば「胃排出機能検査」や「ドリンクテスト」を行います。
4.5 胃排出機能検査
胃の運動機能を調べる検査の一つで胃から十二指腸へ食べ物を送り出す胃の働きを調べることができます。当院では胃排出機能検査は行っておりません。
4.6 ドリンクテスト
ドリンクテストでは、膨満感などの上腹部症状の有無とその症状の強さと持続時間を調べます。それによって胃が許容できる食事の量を知ることができます。当院ではドリンクテストは行っておりません。
5 FD(機能性ディスペプシア)の治療
機能性ディスペプシアの治療は食生活を中心とした生活習慣の改善と症状に合わせた薬物治療を行います。
5.1 薬物治療
①消化管機能改善薬
胃の運動機能を改善し、食べ物を胃から十二指腸へ正常に送り出すように改善します。
②酸分泌抑制薬
胃酸の分泌を抑え、胃の知覚過敏を改善します。
③漢方薬
胃の血行を良くして、自律神経のバランスを整えるような漢方で胃の不快症状が改善する場合もあります。
④抗不安薬・抗うつ薬
FD(機能性ディスペプシア)には心理的なストレスが大きく影響するため、上記の薬で効果がない場合に服用を検討します。
5.2 食生活と生活習慣の改善
機能性ディスペプシアの原因には、自律神経の乱れからくるストレスの増幅があります。自律神経のバランスを整える生活習慣を心がけることが大切です。規則正しい食事と十分な睡眠、適度な運動などが自律神経の働きを整えます。食事は、以下の点に注意し腹八分目を心がけると良いでしょう。
- 揚げ物などの高脂肪食を避ける
- 糖分の取りすぎに注意
- 辛いもの高塩分食などの刺激物を避ける
- アルコールは適量を心がけ休肝日を設ける
- 禁煙
喫煙によって交感神経が優位となり内臓への血流が減少し、胃の働きが低下します。
5.3 ストレスマネジメント
現代は多くのがストレスを抱えたまま、忙しい日々を送り、ストレスによる弊害は心理的、身体的にも様々な症状を引き起こし、FD(機能性ディスペプシア)もその一つです。実は国もそういった状況に注目し、改善する取り組みとして一定規模の事業者に従業員へのストレスチェックを実施することを義務付けています。そのストレスチェックは厚生労働省のHP https://kokoro.mhlw.go.jp/check/で公開されていますのでご自身のストレス度を知るために実施してみてはいかがでしょうか。いずれの方法でもご自身のストレスを客観的に把握し、ストレスを溜めない工夫をすることが重要です。趣味や運動などでリフレッシュしたり、ゆっくり入浴するなど、その日のストレスはその日のうちに解消することが望ましいと言えます。
6 FD(機能性ディスペプシア)と男性更年期
検査によって胃の器質異常もなく、薬の治療と生活習慣や食事の改善を行ってもFD(機能性ディスペプシア)の症状が続くという患者さんが時折、いらっしゃいます。特に40代後半以降の男性に多く、その場合には男性更年期の可能性を疑います。男性更年期障害では様々な不定愁訴に襲われ、胃痛や胸焼け、食欲不振なども起きることがあります。詳しくは、男性更年期障害の記事をご参照いただき、ご自身の症状が当てはまる場合には医師にご相談ください。
7 診療費用
当院は全て保険診療です。
初診の診療費用は薬代を除き、およそ下記のようになります。(3割負担です)
尿検査のみ | 2000円前後 |
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エコー検査のみ | 2500円前後 |
採血+尿検査 | 3500円前後 |
採血+尿検査+エコー検査 | 5000円前後 |
胃カメラ | 3500円前後 |
大腸カメラ | 9000円前後 |
CT検査 | 5000円前後 |
胃の不快感や胃痛、胸焼けを感じるという方は、池袋消化器内科・泌尿器科クリニックにお気軽にご相談ください。当院では、患者さん全員を番号でお呼びし、全席に仕切りを設けてプライバシーにに配慮した診療を行い、経験豊かな専門医が患者さんに寄り添う診察を心がけております。
名古屋大学出身
消化器病学会専門医
消化器内視鏡学会専門医
内科認定医
肝臓、胆嚢、膵臓から胃カメラ、大腸カメラまで消化器疾患を中心に幅広く診療を行っている。