腎臓の腫瘍について(腎臓癌、腎血管筋脂肪腫)
腎臓は、私たちの健康を支える重要な臓器です。近年、腎臓癌を公表された芸能人、著名人もいて、腎臓癌への関心が高まっていますが、詳しくご存知ない方も多いのではないでしょうか。
こちらのページでは腎臓の役割について解説し、さらに腫瘍についてお話させていただきます。
◆目次◆
1 腎臓とは
2 腎臓の腫瘍とは
3 腎臓の悪性腫瘍
3.1 腎細胞がん
3.2 転移性腎腫瘍
4 腎臓の良性腫瘍
5 腎臓の腫瘍を見つけるための検査
5.1 尿検査
5.2 採血検査
5.3 超音波(エコー)検査
5.4 CT検査
6 腎臓の腫瘍の治療
6.1 外科的治療・手術
6.2 ラジオ波による治療
6.3 凍結療法
6.4 動脈塞栓術
7 診療費用
1 腎臓とは
腎臓は手の拳ほどの大きさをしたソラ豆のような形をした臓器で左右に一つずつあります。腎臓は、わずか、200−250gの小さな臓器ですが、我々の健康を維持するため大きな役割を担っています。腎臓の役割の中で最も重要なことの一つが尿を作ることです。私たちは、日々、食物や水などを摂取し、その栄養素等は血液によって全身に運ばれます。そして、体を循環してきた血液は腎臓の中に流れ込み、老廃物や毒素は濾過され、不要となった水分とともに尿として体の外に排出されます。また、腎臓には骨を生成する働き、赤血球を作る働きがあります。腎臓の機能が低下すると体に不要となったものを排出できなくなり、その結果健康障害を起こしたり、骨が脆くなる骨粗しょう症や貧血などを招くことになります。
2 腎臓の腫瘍とは
一般に腫瘍とは『できもの』のことを指します。腎臓のできものは、『良性腫瘍』と『悪性腫瘍』と2つに分けられます。良性腫瘍の場合は、腎血管筋脂肪腫と呼ばれる1つのタイプのみで腎臓の中に留まり、腫瘍が大きくなる場合でも転移することはありません。一方の悪性腫瘍の場合は、腎臓がんということになり、進行すれば腎臓の中で広がり、さらに他の臓器へ転移することもあります。
3 腎臓の悪性腫瘍
3.1 腎細胞がん
腎臓の悪性腫瘍は、腎細胞がんと呼ばれ、腎臓由来で発生します。腎細胞がんの多くは、早期では無症状ですが、腫瘍の数が増えたり、大きくなってくると腫瘍が血液中に放出する物質によって全身の倦怠感や発熱、食欲不振などが現れてきます。そういった状態は、腎細胞がんの進行癌であり、転移の可能性も出てきます。進行癌となった腎細胞癌の治療、回復は非常に難しく、早期発見が重要となります。これまで腎細胞がんを公表した芸能人の報道などをみても検診の超音波(エコー)検査で腎細胞がんを早期に発見したケースでは、内視鏡手術により治療を行い復帰した方もおられます。そういった例からも定期的な検診がいかに重要かがお分かりいただけると思います。
3.2 転移性腎腫瘍
転移性腎腫瘍は、他の臓器に原発癌(元となる癌)があり、その原発癌が進行し、腎臓に転移した癌を言います。転移性腎腫瘍は、肺癌、乳癌、胃癌からの転移によるものが多いと報告されています。
4 腎臓の良性腫瘍
腎臓の腎血管筋脂肪腫(AML:renal angiomyolipoma)と呼ばれているもので、腎臓の良性腫瘍はこの一つのみです。腎血管筋脂肪腫とは、腎臓の中に血管と筋肉と脂肪の塊ができる腫瘍で、良性腫瘍ですが「大きくなる」という特徴があります。腎血管筋脂肪腫は、大きくなり破裂することもあり、そうなると出血や痛みを伴うため、経過観察を行い、大きくなる場合には治療が必要となります。一般に腎血管筋脂肪腫の直径が3−4cmを超えてくると治療対象と言われますが、医師や病院によっても方針は異なります。
5 腎臓の腫瘍を見つけるための検査
5.1 尿検査
腎臓に腫瘍がある場合でも早期では、尿検査に異常を示す結果が出ることはありません。これは、良性、悪性のいずれの腫瘍でも同様です。尿検査で血液や白血球の増加が認めらる場合は、1番最初に腎臓の腫瘍を疑うことはありませんが、病気のサインであることは確かです。腎臓の悪性腫瘍でかつ病期が進行していると尿検査に異常が出てくることもあります。
5.2 採血検査
一般的には腎臓の腫瘍が早期の段階では、採血検査の値はほとんど変化しないため、採血検査で早期発見というのは難しいと言えます。悪性腫瘍である腎細胞がんや転移性腎腫瘍が進行してくると白血球の増加や炎症所見であるCRP値の上昇、血沈の亢進が見られるようになります。
5.3 超音波(エコー)検査
超音波検査は、放射線を使用せず、体に害もなく、痛みを伴うこともない簡便な検査です。
超音波検査は、良性、悪性いずれの腎臓の腫瘍を見つけるのに非常に適した検査であり、超音波検査をすることで腎臓に腫瘍を疑うことができます。一般的に超音波検査をする機会は少ないと思いますので、1年に1度は、健診や人間ドッグを受け、その際に超音波検査を受けることをお勧めします。
5.4 CT検査
超音波検査では、腎臓に癌や良性腫瘍があると疑われた場合、その段階ではまだ推定の域です。超音波検査は体に害がない反面、腫瘍の大きさ、性状、周りの臓器への広がりなどを知ることはできません。そこで、超音波検査の次に造影CT検査をすることで、腎細胞癌なのか転移性の腎腫瘍なのか良性の腎血管筋脂肪腫なのかを明確に診断することができます。造影CT検査の際に胸や大動脈の周りのリンパ節、肺などを同時に撮影することで転移がないかを調べることができます。
6 腎臓の腫瘍の治療
6.1 外科的治療・手術
癌や腫瘍の多くは、外科的治療の手術が必要になります。しかし、手術が最善の治療かどうかは、個々の患者さんによって異なります。例えば、体力が低下した高齢の患者さんのケースでは、全身麻酔による合併症や体にメスを入れるため大きなダメージが加わることが予想され、手術が適さない場合もあります。そういった手術に伴うリスクに耐えられると判断された場合は、手術を選択します。腎臓の腫瘍の手術では、以前は開腹手術が多く行われていましたが、最近では技術の進歩により、腹腔鏡手術やロボット手術が普及し、より小さい傷で腎臓の腫瘍を取り出すことが可能になりました。それにより、腎臓の腫瘍が小さい場合は部分切除といって腫瘍のみを取り除き、腎臓を温存して、将来のために腎臓の機能を保つ考え方が主流となっています。
腎臓の良性腫瘍である腎血管筋脂肪腫の手術に関しては、腹腔鏡手術やロボット手術が基本ですが、3cmもしくは4cmを超える場合にのみ適用となります。しかし、前述したように、その判断は病院によって異なります。
6.2ラジオ波による治療
ラジオ波による治療では、手術とは異なり「切る」必要はありません。ラジオ波による治療とは、皮膚を通して腎臓に電極針を刺して、ラジオ波(電流)を流すことで針に60度以上の熱を発生させ、その熱によって腫瘍を壊死させる治療です。ラジオ波による治療は、腎臓の悪性腫瘍に使われ、その大きなメリットは針を刺すだけなので大きな傷が残らなくていいという点です。全身麻酔も切ることもなく、治療に伴うリスクが低いため、高齢者が受けることも可能な治療です。デメリットは、腫瘍が本当になくなったかという確信がないという点にあります。腫瘍を熱で壊死させたあと、壊死した腫瘍痕は、そこに残るので、しばらくして変異がないか、またCTを撮って腫瘍が小さくなってるか等を確認することで初めて治療効果を知ることができます。そのため、完全に腫瘍がなくなったと確信が持てるのは最低でも2〜3年はかかることもあり、その間に不安を抱える患者さんも少なくありません。
6.3 凍結療法
凍結療法とは、皮膚を通し、専用の針を腎細胞癌に刺して-20度以下に下げることで腫瘍を死滅させる治療法です。ラジオ波と同様に腎腫瘍がなくなったかどうか確信が持てないので治療効果がわかるのは数年後となります。手術によるリスクが高い高齢者には適した治療法の一つです。手術により体にメスを入れたくないと言う人にも向いています。
6.4 動脈塞栓術
腫瘍は血管から栄養を得て増殖していくので、血管を閉じて腫瘍への血流を止めることができれば、腫瘍は増殖できなくなります。そのため、腕や手首、大腿の血管からカテーテルを通し、大動脈を通じて腎臓の動脈部分に到達させ、造影剤を流しながら撮影し、画像を見ながら腫瘍に栄養を供給している血管を定め、塞栓物を血管内に注入し血流を遮断します。
動脈塞栓術は、悪性腫瘍だけでなく良性の血管筋脂肪腫にもできます。悪性腫瘍では、ラジオ波による治療、凍結療法と同様に、動脈塞栓術後に腫瘍がなくなったという保証がないため、しばらく経過を見る必要があります。ただし血管筋脂肪腫には非常に有効な治療法です。
7 診療費用
当院は全て保険診療です。
初診の診療費用は薬代を除き、おおよそ下記のようになります。(3割負担)
尿検査のみ | 2000円前後 |
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エコー検査のみ | 2500円前後 |
採血+尿検査 | 3500円前後 |
採血+尿検査+エコー検査 | 5000円前後 |
CT検査 | 5000円前後 |
当院では、患者さん全員を番号でお呼びし、全席に仕切りを設けてプライバシーに配慮した診療を行なっております。
当クリニックは泌尿器科消化器科専門のクリニックとして経験豊かな専門医が患者さんに寄り添う診察を心がけております。腎臓の疾患、腫瘍は早期発見が早い回復の鍵となります。小さな症状でも腎臓の健康に不安を感じる方は是非一度、当クリニックにお気軽にご相談ください。池袋駅前でお待ちしております。
執筆 泌尿器科専門医 伊勢呂哲也